無駄遣い大国ニッポンの病巣

2.社会的コスト削減に向けた戦略ポイント① ~行政情報化はなぜ必要か?

 ←1.行政システムの効率化は何のために必要なのか? →閑話 シルバー・デモクラシー

前回のブログで、1997年に策定された「行政情報化推進基本計画」で書かれた理念が20年経った今でも何一つ実現できてはいないではないか、と指摘させていただきました。
再度振り返りますが、同計画では以下のように謳われています。
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1 行政情報化の理念
行政の情報化は、行政のあらゆる分野への情報通信技術の成果の普遍的な活用とこれに併せた旧来の制度・慣行の見直しにより、国民サービスの飛躍的向上と行政運営の質的向上を図ることを目的とするものである。
この意味で、行政の情報化を、新時代に対応できる簡素で効率的な行政の実現、国民の主体性が生かされる行政の実現、国民に開かれた信頼される行政の実現及び国民に対する質の高い行政サービスの実現を目指す行政改革を実施していくための重要な手段として位置付け、その積極的な推進により、国民の立場に立った効率的で効果的な行政の実現を図る。
2 計画目標
行政の情報化により、事務・事業及び組織の改革を推進するとともに、セキュリティの確保等に留意しつつ、「紙」による情報の管理からネットワークを駆使した電子化された情報の管理へ移行し、21世紀初頭に高度に情報化された行政、すなわち「電子政府」の実現を目指す。
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いかがでしょう?私は、今読み返しても実に時代を先読みした格調の高い理念と目標だったと心底感じます。ふた昔も前の1997年の当時は、今日のようなインターネット環境は整備されておらず、行政システムも汎用機中心の時代で、パソコンもようやくWindows95が発表された頃です。先のブログでも、韓国がこの計画に瞠目したと書きましたが、それは当然のことだったと思います。
欲を言えば、これも前回のブログで指摘したような<何のために・・・>という記述がもう少し明確だったら国民の理解も深まったのではないかということと、電子政府の対象を「行政」に留めてしまったことくらいでしょうか。後者については本稿の主題から外したいので、簡単に触れるだけにしますが、「電子政府(e-Government)」は、行政のほかに「立法」と「、司法」も含めて捉えて欲しかったとだけ指摘させてください。(この点は、後ほど必要に応じて蒸し返させていただきますが)

さて、前者の<何のための電子政府か?>ということについて以降記述させていただきますが、私は「社会的コストの削減」が目的の大きな柱にあると考えています。
前回及び前々回で触れたとおり、社会的コストの増大は、いうなれば社会の血流を妨げるような大きな弊害を与えると考えます。
全くの偶然ですが、今日一日そのことを深く考えさせられる事態に私自身が遭遇しましたので、その体験談からお話ししたいと思います。

実は、ある事情により会社をいったん休業したことから、これまでの厚生年金保険と協会けんぽを脱会し、新たに国民健康保険に加入する必要が生じました。もともと、私一人の個人企業でしたので、年金受給者の私は国保への加入義務はありませんので、健康保険のみの種別変更という簡単な手続きでした。ところが、お恥ずかしいことに私自身の認識の甘さもあり、その手続きにほぼ7時間もかかってしまったのです。
順を追って今日の行動を振り返らせてください。
①8:30に車で自宅から地元の年金事務所に向かう(電車やバスではいけない場所なので)→9:00に到着
②番号札を取って呼ばれるまで20分ほど待たされ、順番で呼ばれたら「会社管轄の年金事務所で喪失手続きをしてください」と指示される
③10:00 渋滞にはまりつついったん自宅に戻り車を置いて、電車で中央区年金事務所に向かう→11:00過ぎに到着
④番号札を渡され30分ほど待ち喪失手続は終了したが、国保に加入するため喪失証明が必要だというと、「それなら申請書に記入してください」と言われた
⑤申請書に記入して、再度番号札を取って呼ばれるまで待つことになり、40分程度待たされる
⑥13:00 ようやく順番が回り、喪失証明書なるものを入手(私の出した申請書に受領印が押してあるだけの書類)
その後、昼食を摂りながら別の仕事をした後、国保の加入手続きのため15時頃再び自宅に戻る
⑦16:00 再び車で市役所に行き、国保の加入手続きを行い、30分ほど待たされた結果17時過ぎにようやく完了!!

このように書くと、私の要領の悪さが際立っており、恥を晒しているようですが、これが今日一日の私の行動でした。
さて、①の段階で、私は全国どこの年金事務所に出向いても手続きはできるものだという思い込みがありました。しかし、年金事務所の管轄は明確に決められており、銀行のようなオンラインでの手続き離されていないという事実に気づかされました。私の会社は中央区にあるため、管轄事務所は東銀座7丁目の東京都中央年金事務所でした。そのため、往復で2時間以上もかけて電車で向かわざるを得なかったのです。(電車賃も1500円ほどかかりました)
②⑤⑥は完全な待ち時間です。事務所の窓口にはかなりな列ができており、銀行のような番号札を持って呼ばれるまで待たなければなりません。特に、⑥のタイミングは昼食時にかかっていたため、年金事務所には「職員が交代で昼食に出るためお待ちいただくことがあります」とご丁寧な張り紙までありました。
また、⑥はお役所独特だなぁと感じさせられましたが、喪失届を出したら自然と渡されると思っていた喪失証明書を頂くには、別途証明書を発行するための次のような申請が必要になるとのことでした。喪失証明書申請用紙

喪失証明書がないと、国民健康保険にも(私は不要ですが国保にも)加入できませんので、当然ながら受け取るべきものなのですが、当方から書面で申し出ない限り頂けないのです。また、頂いた証明書は、単に私が先ほど提出した喪失届に事務所印が押してあるだけの極めて簡単なものでした。これなら、その場で渡せば良いのにとつくづく思ったほどです。

さて、私が健康保険の種別変更という単純な手続きに要した時間数はおよそ7時間でした。仮に私の賃金が時間1500円だとすると10,500円を費やしたことになります。それに往復の交通費やガソリン代などなどを含めると、15,000円近くをこのために費やした計算になります。
「こうした手続きなどめったにないので、あまり気にはならないよ」と思われる方もおられるかも知れませんが、はっきり言ってこうした考えは甘いと思います。なぜなら、毎日のようにこのような申請で事務所を訪れる方がおられ、その対応に各事務所ではそれ相応の要員を常駐させています。私の今日訪れた2つの年金事務所は比較的規模が大きい事務所でしたが、平均しても1事務所当り50名くらいはおられるのではないでしょうか。全金事務所は全国に312か所存在し、正規・准職員が約11,000人いるということです。当然ながら彼ら職員の平均賃金は知れる立場ではありませんが、仮に1人当たりの年俸を仮に400万円だとすると、単純な俸給ベースだけで年間440億円という計算になります。そのほかに、各自治体には国民年金課や国民健康保険課などだ存在します。これらの職員をすべて合算すれば、純粋な人件費だけでもかなりの金額になるのではないでしょうか?
また、私のように右往左往しながら日常には経験しない慣れない手続きにやって来る来場者が引きも切らさないという実態もあります。こうした人々は、交通費やそれに要する時間単価などはすべて自腹なのです。
さらに、年金事務所の建物代や光熱費、コンピュータや什器・備品等のコストなど、運用に関わる費用もばかにはならない金額になるでしょう。
社会保険の関係だけでもこうしたコスト負担が国民にのしかかっているのです。
今年の1月に、年金支給額を物価下落に対応して、0.1%引き下げました。年金財政が極めて危機に瀕しているとは、かなり以前から言われてきたことですが、その穴埋め策として、年金支給額の水準を呼び厳しくしたり、先送りはされていますが消費税の10%への引き上げなど、政府は様々な対策の検討を進めていますが、事務コストの削減に限ってはなぜかあまり話題に登らないことが不思議でなりません。一般企業であれば、経営健全化が求められた折に真っ先に考えることは、コストの削減ではないでしょうか?年金財政全体から見れば、人件費などのコストは高が知れていると思われる方もおられると思いますが、昼休みにオフィスの電気を切るなどして地道なコストダウンを図っている企業の姿勢などは、永田町や霞が関の偉い方々からは「評価に値せず」と冷たい眼で見ておられるような気がします。しかし、削減努力もしないまま従業員の給与(≒年金水準)を一方的にカットするような経営者では、従業員(≒国民)の誰もがついていかないのではないでしょうか。

税務でも同じようなことが言えるような気がします。
国税庁のホームページによれば、税務署は全国で524か所あり、平成15年度末現在の定員が56,315人で、そのうち97.4%(大半)は国税局や税務署に配置されていると書かれています。さらに、全職員の68%が所得税・法人税・消費税などの賦課業務、15%が国税債権の管理や徴収の事務、残りの17%が総務事務等に従事しているとあります。
年金機構と同じように、税務職員の俸給を仮に400万円だとすると、単純な俸給ベースだけで年間2,253億円という計算になります。さらに、これ以外に各自治体に地方税などを管轄する税務課と呼ばれる組織もあります。それら全体を合算すると、これまた大変な人件費コストになるでしょう。
さらに、以前触れたような年末調整に関わる業務や、法人税・消費税・所得税確定申告など、納税者側の負担をコスト換算すれば、かなりの額に上ることは容易に想像することができます。
前にも書きましたが、会社を一時休業するに当たり、そのための申請に私自身も管轄の税務署や都税事務所などを訪れましたが、やはりかなりの長蛇の列ができていました。これも納税者側の負担感を増す要因になっているのではないでしょうか。

さて、ここまでの事例で、社会的コストというものは国民生活にかなり重くのしかかっているものだということがご理解いただけたのではないでしょうか?
公務員の人件費や政府の土地や建物、さらに運用に関わるコストなど諸々のコストなどは、一般会計と呼ばれる税金から拠出されてます。言い換えれば、国民すべてが所得などに応じて拠出しているお金なのです。こうしたコストを少しでも削減することは、国民の負託に応えるべき立場の行政としては、真っ先に取り組むべき仕事なのではないでしょうか。


再び行政情報化推進基本計画の理念に戻りますが、「行政のあらゆる分野への情報通信技術の成果の普遍的な活用とこれに併せた旧来の制度・慣行の見直しにより、国民サービスの飛躍的向上と行政運営の質的向上を図ることを目的とする」という理念は、こうした目的の上で初めて成り立つとように思えるのです。

これまで社会保険と税だけを見てきましたが、行政が交付する証明書類も、住民票が7500万件、印鑑証明が1300万件などとかなりの数に及びます。以前、ある市の幹部の方が、市が発行する証明書の7割は、同じ市の別の窓口に帰ってくると言っておられました。つまり、同じ役所内で情報が引き継がれさえすれば、約7割はこうした証明書類を発行してもらう必要がなくなるのです。極論すれば、横にいる職員にちょっと確認するだけで事足りることだけのことなのです。そのための証明書を市民が交付申請し発行手数料を払って隣の窓口に持っていく・・・まるで市民がお金を払ってまでの使い走り役をさせられているような感じさえします。
これらの証明書発行業務は、自治体の住民(市民)課などで行われており、日々大勢の人が訪れており、それに対応する職員も常駐しています。
法務局でも、商業登記の謄抄本が4600万枚、不動産登記の謄抄本は7700万枚という発行枚数があるようです。これらの膨大な量の証明書類交付業務は、果たしてマイナンバー(個人番号・法人番号)が導入された今日、どれほどの必要性があるのでしょうか?

韓国では、こうした行政が発行する証明書類はほぼ完ぺきに電子化されており、電子的に情報を交換することで証明書の大半は廃止されています。また、いったん行政に提出した書類を再度提出を求めることは電子政府法で禁じられてもいます。つまり、それら証明書の再交付を受けることなく諸手続きが完結できる仕組みが完成しているのです。その影響で、前回のブログでも書きましたが、市役所は閑散としており、窓口に座っている行政職員もごくわずかしかいません。
この背景には、極めて皮肉なことに1997年に策定した我が国の行政情報化推進基本計画の構想が生かされた結果なのです。
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社会全体の情報化の進展に対応するとともに、国民に対する情報通信技術の成果を活用した広範な行政情報の提供、行政手続に係る国民負担の軽減への要請に的確に対応していくため、整備が進展しつつある行政内外の情報通信基盤を活用し、行政サービスの質的向上を図る。その際には、官民の役割分担、規制緩和、地方分権の観点からの事務・事業の必要性に留意するものとする。(行政情報化推進の基本方針より)
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本家本元の日本で、なぜ紙による行政スタイルが20年後の現在でも根強く残っており、大量の行政職員と大勢の市民が行政に日参するような光景が残されているのか実に不思議だとは思われませんか?
電子にすると改ざんが心配だと思われる方もおられると思いますので、それについても触れさせていただきます。
実は、紙による証明書では発行履歴(アクセスログ)が自動的には残らないため、不正な証明書の閲覧や改ざん等の危険の可能性が伴うと私は考えます(もちろん役所は発行記録を残していますが、これらは人の手で記録されています)。簡単な話、紙の証明書は何枚コピーされてばら撒かれても、証拠を残すことはできません。人手による作業のため、記録の取り忘れや記入ミスも考えられないことではありません。また、多少のテクニックを用いれば、改ざんさえも容易に行えるのです。電子文書では、(もちろんそれなりのセキュリティ対応は必要ですが)、いつ、だれが閲覧したのかの痕跡が確実に記録できますし、書類ごとに電子証明書を押すことで改ざんも困難です。
さらに、わが国では印鑑がよく用いられますが、印鑑というものは印影さえ取得すれば比較的容易に偽造できる代物なのです。自治体には印鑑を登録し、印鑑証明書の発行業務というものがありますが、印影を偽造されて登録されれば、誰でも容易に成りすましすことは可能なのです。まして、3Dプリンターなどを使えば、今まで以上にコピーすることは容易にできるでしょう。ちなみに、自治体が保証する範囲は、印影が確実に登録されているものであるということだけで、その印影の持ち主が確実に本人であるという証明はまではしてくれません。仮に、印鑑証明書が成りすまされたと言ってその被害を行政に持ち込んでも、行政はその責任を取ってはくれません。せいぜい、「警察に相談してください」と言われるのがオチです。不動産取引や連帯保証人の署名などの高額な取引の際に実印が用いられますが、実際にはこのような極めて危うい合意の上で用いられているのです。
こうした紙や印鑑といった旧来の仕組みは、マイナンバーカードに収納されている電子証明書というものにとって代わることが可能です。この偽造はまず不可能ですし、その証明書は行政が管理するマイナンバーに基づいているため、確実な本人性が保証されています。こうした電子証明書をより幅広く活用することで、社会の安全性は確実に向上することになると考えます。

さて、以上述べさせていただいた事柄をまとめると、「社会的コスト削減」を目的とした戦略上のポイントとして、まずは以下の事項が明らかになると思います。

①民間企業にマイナンバーによる情報連携を拡大し行政関連業務の効率化を図る
②年末調整・社会保険手続きなど企業が行政から委託を受けて行う業務のスリム化を実現する
③一度行政機関に提出した申請・届出書類は二度と同じ書類の提出は求めないこととする
④申請、本人確認・署名等の行為は原則として電子証明書を活用する

実は、社会的コストの削減という目的を達成するためには、これ以外にも考えておかなければならない事柄があります。
本稿を「社会的コスト削減に向けた戦略ポイント①」としたのは、そうした理由からです。
②以降の戦略ポイントは、次回以降で順次述べさせていただきたいと思います。




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